Aさん「今度は自分かもしれない」
おはようございます。
久留米のじじいであります。
Aさんが小雨の中、駆け込んできた。
よほど、話したいことがあるようだ。
小雨模様だから、物置の内で折りたたみの
椅子に座って話し込んでいる。
話しはあまり弾まないようで、ほどなく
帰って行った。
***
家人「あのね、また1人減ったよ」
いつものとおりで、主語がなし。
肝心の名前がないから、誰だかわからん。
私「どこどこの誰々さんでしょうかね」
家人「わからないかい、Hさんだよ」
ここらが田舎だと言っても、知り合いは
50人を下らん。
元気で息をしている。
病気がちで細々と息をしているやつもいる。
私「Hさんがなくなったのか」
家人「いいや、特老に入った」
これで、やっと話の正規のコースになった。
ワシは我慢強い。
***
私「そうかあ、Hさんかあ、あの元気もんがかあ」
家人「かあ、かあ、かあ、とカラスかい」
Hさんは、元気で明るかった。
おしゃべりの仲間だった。
家人と小学校が同じクラスだった。
ここに帰ってきた時は、一番喜んだ。
あれからもう、25年ほどになる。
亭主は、早く亡くなった。
海釣りに行って、釣りの荷物だけ帰って来た。
磯に釣り船で渡った、夕方迎えに行った。
荷物だけあって、何処にもいなかった。
あたり一帯を捜索したが、見つからなかった。
もうずいぶん昔だからね。
ケロリとして話してくれた。
***
Hさんは、家を建て替えた。
息子夫婦が同居すると喜んでいた。
同居はしたが、嫁さんとは合わなかった。
1年もしないうちに、出て行った。
もとの一人暮らしになった。
「ホッとした」と言う。
嫁とお姑のことはむづかしい。
孫はなついていて、良く泊まりに来る。
それが、去年の暮から様子が少しおかしい。
ボケが入ったようだ。
近所の人が、民生委員さんに相談した。
民生委員と包括センターのケアマネージャーと
息子が話し合った。
結果は、特老のホームに入ることになった。
建て替えた家は、ローンが残っていた。
息子が、帰って来て住むことになった。
家賃代わりに、ローンを返済するそうだ。
***
ほぼ、Aさんの一方的なおしゃべりで
相づちを打つしかなかった。
Aさんは「今度は自分かもしれない」と
言って、しょんぼりと雨の中を帰った。
「また、寂しくなるね」
窓の外の雨を、二人でながめていた。
では、また明日。
ポチッとをいただくと
雨も止みます。